◆作曲 石倉雄太 ◆演奏 ユーフォニアム 石倉雄太 トロンボーン 坂本響 山口涼 テューバ 石﨑義基 鈴木快門 ◆曲目解説 「BrokenMirror」 2021年7月 作曲するにあたって、この曲は鏡をテーマにした。曲名を「割れた(Broken)鏡(Mirror)」としたのは、通常の鏡の映し出す景色ではない、割れた鏡にしか映し出せない偶然の景色を音楽で表現しようと試みたからである。本来、割れていない通常の鏡は現実をそのままに反射させるが、割れた鏡は現実をそのままに反射させることができない。それは一見、鏡としての本来の機能を使えない「役立たず」と思ってしまうが、そこには万華鏡のように、人類が意図して作り出すことは困難なほどの美しい景色が存在する。そんな景色を歪(いびつ)な反射しかできない割れた鏡に求め続けてしまう様子を描いた。それは、現実に起こる正解のない争いや、どんなに叶えたい願いも、たとえ願い続けても叶わないこともある現実から目を背けたいという辛い願いも込められている。しかし、それは間違いであり、その美しい景色はあれほど憎んだ暗く悲しい現実から生み出されていることを知っていくだろう。 この曲は3楽章で構成されている。 第1楽章:Vivace 変ホ短調 4分の4拍子と4分の3拍子の組み合わせによる暗い現実世界を表現した主題が奏される。7拍子ともとれるこの主題は、歪な割れた鏡を表現しようと考えた結果、割り切ることのできない拍子の設定になった。この主題による変奏が行われた後、中間部には渦巻く光の反射が一つに集まる様子を表現した開放感のある旋律が奏される。しかし、そんな美しい景色は長く続かないことを示すかのように、ユーフォニアムの力強く駆け上がる旋律によってなだれ込むように第2楽章へ突入していく。 第2楽章:Andante calmato 変イ長調 第1楽章での、けたたましい表情から打って変わり、叙情的な旋律が繰り広げられる。幻想的でありながらもどこかミステリアスな雰囲気を醸し出す旋律は、この暗い現実世界から目を背けてしまった後の、夢の世界を表現している。第2楽章を締めくくる主題は、第1主題で用いられた暗い現実世界を表現した主題の反転(反射)されたモティーフが使われており、鏡によって反射され、映し出された景色を表現している。壮大な第2楽章はユーフォニアムの短いカデンツァを経て第3楽章へと続く。 第3楽章:Vivace 変ホ短調 第1楽章と同じく暗い現実世界が表現されているが、更に歪さが増す。ユーフォニアムの第1楽章の主題の変奏と、激しい動きのブラス・アンサンブルによって、現実世界にはもう希望が無いかのように見えてしまう。しかし、曲は光が渦巻いていく様子を表した旋律の過程で変ロ長調に転調し、割れた鏡が作り出した美しい景色を表現した旋律へと到達する。その美しい景色は、暗く悲しい現実が生み出していることから、また元の現実世界に戻されてしまう。しかし、それは決して悲観しているわけではない。暗く悲しい現実があるからこそ、美しい景色を生み出せるということを知り、それを象徴するかのように変ホ長調に転調し、この曲を閉じる。 (石倉雄太)
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