編曲をするときに気をつけていること

僕が最初に「編曲」をしたのは、高校生の頃です。

音楽科のある高校で、文化祭のときにミュージカルをやることが通例になっていました。

今でこそ編曲はとても好きですが、当時は「編曲をしたい!」と思っていたわけではなく、普段からよく作曲をしていたので「作曲できるならミュージカルの編曲もやってよ〜」みたいなノリで、僕の初編曲がスタートしました。

そこから現在に至るわけですが、いつもどんなことに気をつけて編曲をしているのか、今日は書いてみたいと思います。

目次

原曲の良さを最大限に活かす

編曲で大切なのは音楽理論?知識?

いえいえ、とんでもございません。

編曲で最も大切なことは原曲を愛し、原曲の良さを最大限に活かす、ということです。

現代は、楽譜が容易に手に入る用になったおかげで、様々な曲が編曲され販売されています。

その中には、原曲がもはやわからなくなってしまうようなスーパーアレンジのものもありますが、僕は原曲の良さがあふれている、そんな編曲が好きです。

原曲の持つ景色や色、香りまでなるべく保ったものにアレンジできるように努めています。

そのため基本的にはお願いされない限り、大胆なハーモニーの変更やメロディをこねくり回すようなことはせず、作曲者が「この曲はどんな気持ちで作曲したのか」を深堀りするように編曲しています。

妥協点は最小限に

「原曲を大切にしたい」という気持ちを大事にしていますが、それでもどうしても妥協しなくてはいけない場面も多々出てきてしまいます。

例えば、編曲する楽器にとってあまりにも吹きにくい調性で原曲が書かれているパターンや、メロディを吹くとどうしても音域が足りなくなってしまうパターンです。

ユーフォニアムだと、あまりにシャープが多い調性だと、なんだか嫌な感じしますよね?

メロディの一番美味しいところがHiBのロングトーンだったりしたら、吹く前に「うわ。やりたくねえ」となりかねません。

こんなときには妥協点を考えなくてはいけないのですが、どうしてもでてしまう妥協点をいかに抑えられるかというのがポイントです。

調性を変えないといけないパターン

最初に例に出した調性のパターンだと

調性があまりにも多い→別の調性にする

という作業になるのですが、僕の場合はシャープ調ならシャープ調、フラット調ならフラット調と、調の種類を変えないようにしています。

「調性なんてどれも一緒だよ」なんて人もいるかもしれませんが、作曲家にとって調性はとても大事にしている点でもあります。作曲家が大事にしているということはそう、そこが曲の色や景色を作っているポイントだったりもするわけですね。

個人的にはシャープの数が増えてくるとギラギラした感じがありますし、フラットが増えてくると温かみが増したり、霧の中に包まれた靄がかかった感じがしたりします。

できる限りその色を残すためにも、調性を変えるときは慎重に検討しています。

音域を変えるパターン

2つ目に出した音域のパターンだと

音域が高すぎる(低すぎる)→別の音域にする or 調性を変える

という作業になります。

音域というのはそれぞれの楽器ごとに美味しい音域があるので、なるべくそこをふんだんに使った楽譜にしたいと思っています。

原曲をそのまま吹くとキツすぎる場合には、一オクターブ下げたりするのですが、ここで注意点。

原曲で音域が高くなっているというのは、曲のエネルギーも一緒に高まっているということです。

想像してほしいのですが、トランペットならハイトーンにならずにすむ音なのに、あえてユーフォニアムにとても高い音が書いてあったりしますよね?

これはトランペットの吹きやすい音ではなく、ユーフォニアムにとっては高い音でとても緊張感があり、エネルギーにあふれた情熱的な音がほしいという、作曲家の願いの現れでもあったりします。

こういう作曲家の願いを消さない編曲にするためには、たとえ一オクターブ下げても、音量記号を原曲から一つ大きいものにしたり、丸ごと調性を変えて程よくエネルギーが高まる音域にしたりします。

曲の良さ×楽器の良さの掛け算

原曲から編曲するときにどの楽器を担当させるのか、いつも僕が考えていることは曲の良さ×楽器の良さが最大になるようにすることです。

例えば吹奏楽の曲→金管7重奏に編曲するとします。

もちろん原曲にある楽器はそのまま書いても大丈夫ですが、原曲では木管楽器が担当しているメロディを金管楽器の何かに変えなければなりません。

作曲家はどの楽器に担当させるかということも、相当なこだわりを持って選んでいるので、こんなとき「音域が近いからトランペット!」と安易に考えてしまうと、曲の良さが失われてしまいます。

そんなときには、その曲の中での楽器のキャラクターが近いものに担当させてあげると上手くいきやすいです。

例えば

  • しっとりとしたオーボエのメロディ→しっとりしたメロディ担当が多いユーフォニアム
  • テンポの速い元気なクラリネットのメロディ→元気な雰囲気を作りやすいトランペット
  • サックス郡の作るハーモニー→ハーモニー楽器でもあるホルンを中心としたホルン、ユーフォ、テューバ

のような感じで決めています。

このように決めていくと仮に音域が全く異なってしまっても、聴いている側は音域を変えたことは気にならず、むしろ曲の良さに耳がいってくれます。

ちょっとしたコツ

最後にちょっとしたコツです。

僕が編曲を始めた初心者の頃は、「音がいっぱい書かれていないと重厚なサウンドは出せない!」と思ってしまっていて、休符が極端に少ない譜面を書いていました。

これ、書いた側は「自分、よく頑張った!」という気持ちになるのですが、演奏する側からしたら「疲れる!」以外の何物でもありません。

重厚なサウンドを目指していたつもりが、疲れた音の集合体を作ってしまう原因になっていたのです。

実は重厚に思える和音も、3声部あったら大体の和音は作れてしまいます。

あえて音を減らすことで奏者が吹きやすい譜面を作り、気持ちよく吹ける譜面にすると、結果的に良い音が響くことが多いです。

空白を作ることで、奏者が吹きやすい、より良い編曲にしていくのが大切ですね。

編曲家にとって一流なのは、「音を減らしても、曲の良さを保てること」だと思っています。

おわりに

編曲。

簡単なようでその人ぞれぞれの曲に対する考え方が顕著に現れる作業だと思っています。

過去には、例えばムソルグスキー作曲の「展覧会の絵」という曲がありますが、この曲を頭に思い浮かべたとき、なんの楽器が聴こえてきますか?

多くの人はあの有名なトランペットのソロの音が思い出されるのではないでしょうか?

しかし、実はこれ編曲版なんです。

聞き馴染みのあるオーケストラ版「展覧会の絵」は、ラヴェルが作曲したピアノのソロ版「展覧会の絵」から編曲されました。

このように、編曲されたことによって有名になっていく曲もよくありますが、これこそ原曲の良さを最大限に活かした編曲だったからこそ、聴衆に受け入れられ、有名になっていったのだと思います。

僕は原曲の良さを最大限に活かした編曲を心がけていきます。

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この記事を書いた人

1999年、長野県出身。
ユーフォニアム奏者、作編曲家として活動中。

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